3/12/2024

落下の解剖学


 グルノーブル近郊の人里離れた1軒の山荘でそこに住まう大学講師の男性が転落死する。一見不慮の事故に見えたものの検死の結果遺体の状況から他殺の疑いが浮上し、遺体発見時に愛犬と散歩に出かけていた息子ダニエルを除き、容疑者となったのはそのとき自室で休んでいたという著名な小説家の妻サンドラだった。息子と妻の証言はときに揺らぎ、自殺他殺どちらの線でも決定的な証拠はなく、夫サミュエルが目を離した隙の事故でダニエルは視力に障害を抱えてしまったなど夫婦を取り巻く過去の出来事や確執、ひいてはサンドラの著作からも様々な理由付けの推測がなされ裁判は進んでいくが、サミュエルが死の前日に隠し撮りしていたとされる夫婦が口論する音声を収めたUSBが法廷に証拠として提出される。果たしてサンドラは本当に手を下したのか?

 どんなに疑わしく見える状況や判断材料があっても決定的な証拠がない限り被疑者は推定無罪。目撃者も物的証拠もほとんどない閉ざされた環境で起きた夫の死に、検察はときに詭弁にも聞こえるような事柄を盾に妻を追求し、次々と語られるそれらしい推測に裁判長も傍聴人も、そして息子のダニエルでさえも耳を傾ける。頭の片隅にかすかな疑念を抱きながらも弁護士はそれらを一つずつ反論していく。スクリーンのこちら側ももしやと疑念を抱きつつ見入ってしまう。事実は1つでも物的な確固たる痕跡がない推測より憶測を、証明すること晴らすこと双方の難しさ。複雑な余韻を残す結末が秀逸。

ポスター、わんこスヌープ(・ザ・ドッグ…なるほど!)が写ってるのは日本版だけの模様


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原題:Anatomie d'une chute 監督:ジュスティーヌ・トリエ 2023年製作
出演:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、メッシ・ザ・ドッグ
2024.3.10.鑑賞 @109シネマズ二子玉川



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