“鉄の爪”の異名をもった伝説的レスラー、フリッツ・フォン・エリックの息子たちとして1980年代にプロレス界で活躍したケビン、デビッド、ケリー、そしてマイケルの兄弟と父親フリッツらフォン・エリック一家の絆と悲劇を描いた物語。
彼ら兄弟が日本のリングに登場した80年代は自分もリアルタイムでときどきテレビや雑誌でプロレスを追っていたので、フォン・エリック家がデビッドの死後もケリーの事故など不幸に見舞われたことはなんとなく知っていたけれど、自分が知っていた3兄弟以外にも弟たちがいて(マイケルは知らなかったのと、映画にはなぜか描かれていないけれど彼の下にもう一人クリスという息子がいる)その彼らもプロレスの道に進んだものの自死を選んでいたことは知らなかった。ケリーが亡くなっていたのもずいぶん後で知ってとてもショックだった。
父親のフリッツが息子たちをチャンピオンにしたいという夢を持たなければ悲劇は回避できたのだろうか? 映画で描かれたことがすべて忠実かどうかはわからないけれど、フリッツは息子たちを厳しく鍛えたけれど少なくとも専制的威圧的な態度をとっていたようには描かれていなかったと思うし、どちらかというと”鉄の爪”をトレードマークにチャンピオンまであと一歩まで上り詰めた父親を兄弟たちは崇拝していて、父親が恥じないような選手になろうと自主的に鍛錬してきたようにもみえた。現実離れした不幸の連鎖と、やがてケビンが団体を継いだところで初めて知る帳簿上の不都合などフリッツとケビンのあいだになんらかの軋轢は生じていたのかもしれないけれど、彼らの悲劇は誰のせいでもないような気もする。「呪い」やら「運命」で片付けられたらどんなに楽だろうってケビンも思っていたのでは。
映画化にあたって監督がケビンに話を持っていったときに、一家を襲った悲劇の物語ではなく家族の物語にしてほしいとリクエストされたそうだけれど、それが劇中に何度も出てくる「自分たちには家族が一番大事」というセリフだったり、冥府で兄弟たちが再会するシーンやケビンと彼の子どもたちのやり取りのシーンに反映されているのだろう。その2つの場面はとても優しく心に残る。
フォン・エリック一家に実際に起きた出来事はあまりにも不幸すぎたけれど、ケビンが今も妻と一緒に元気でいて、子どもたちや孫たちなど大勢の家族たちに囲まれて幸せに暮らしているということを知ることができたのはなによりの救いだった。
ザック・エフロンはじめ兄弟役の役者さんたちの体の作り込み方が驚くほどすごい。プロだなーと感嘆。ちょこちょこ登場する兄弟と対戦するレスラーたち、ブロディやレイスにフレアとかもビミョーに似ていて懐かしかった。そういえば監督がイギリスの方だというのもちょっと意外だった。イギリスと言えばダイナマイトキッドだよね
原題:The Iron Claw 監督:ショーン・ダーキン 2023年製作
出演:ザック・エフロン、ハリス・ディキンソン、ジェレミー・アレン・ホワイト、スタンリー・シモンズ
@109シネマズ二子玉川 2024.4.8 鑑賞