4/10/2024

アイアンクロー

 “鉄の爪”の異名をもった伝説的レスラー、フリッツ・フォン・エリックの息子たちとして1980年代にプロレス界で活躍したケビン、デビッド、ケリー、そしてマイケルの兄弟と父親フリッツらフォン・エリック一家の絆と悲劇を描いた物語。

 彼ら兄弟が日本のリングに登場した80年代は自分もリアルタイムでときどきテレビや雑誌でプロレスを追っていたので、フォン・エリック家がデビッドの死後もケリーの事故など不幸に見舞われたことはなんとなく知っていたけれど、自分が知っていた3兄弟以外にも弟たちがいて(マイケルは知らなかったのと、映画にはなぜか描かれていないけれど彼の下にもう一人クリスという息子がいる)その彼らもプロレスの道に進んだものの自死を選んでいたことは知らなかった。ケリーが亡くなっていたのもずいぶん後で知ってとてもショックだった。
 父親のフリッツが息子たちをチャンピオンにしたいという夢を持たなければ悲劇は回避できたのだろうか? 映画で描かれたことがすべて忠実かどうかはわからないけれど、フリッツは息子たちを厳しく鍛えたけれど少なくとも専制的威圧的な態度をとっていたようには描かれていなかったと思うし、どちらかというと”鉄の爪”をトレードマークにチャンピオンまであと一歩まで上り詰めた父親を兄弟たちは崇拝していて、父親が恥じないような選手になろうと自主的に鍛錬してきたようにもみえた。現実離れした不幸の連鎖と、やがてケビンが団体を継いだところで初めて知る帳簿上の不都合などフリッツとケビンのあいだになんらかの軋轢は生じていたのかもしれないけれど、彼らの悲劇は誰のせいでもないような気もする。「呪い」やら「運命」で片付けられたらどんなに楽だろうってケビンも思っていたのでは。

 映画化にあたって監督がケビンに話を持っていったときに、一家を襲った悲劇の物語ではなく家族の物語にしてほしいとリクエストされたそうだけれど、それが劇中に何度も出てくる「自分たちには家族が一番大事」というセリフだったり、冥府で兄弟たちが再会するシーンやケビンと彼の子どもたちのやり取りのシーンに反映されているのだろう。その2つの場面はとても優しく心に残る。
 フォン・エリック一家に実際に起きた出来事はあまりにも不幸すぎたけれど、ケビンが今も妻と一緒に元気でいて、子どもたちや孫たちなど大勢の家族たちに囲まれて幸せに暮らしているということを知ることができたのはなによりの救いだった。

 ザック・エフロンはじめ兄弟役の役者さんたちの体の作り込み方が驚くほどすごい。プロだなーと感嘆。ちょこちょこ登場する兄弟と対戦するレスラーたち、ブロディやレイスにフレアとかもビミョーに似ていて懐かしかった。そういえば監督がイギリスの方だというのもちょっと意外だった。イギリスと言えばダイナマイトキッドだよね

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原題:The Iron Claw 監督:ショーン・ダーキン 2023年製作
出演:ザック・エフロン、ハリス・ディキンソン、ジェレミー・アレン・ホワイト、スタンリー・シモンズ
@109シネマズ二子玉川 2024.4.8 鑑賞

 

4/08/2024

オッペンハイマー

 ひとりの原子物理学者として、研究、実験、実践したオッペンハイマーの複雑な生涯を描いた伝記映画。
 原爆の描かれ方/使われ方に対し 史実使われた側としては特別な感情、あまりに短絡的じゃないかと憤りの気持ちを抱くのは当然だけど、物語として描かれているのはそれそのものではなく作り出した彼自身の「生涯」。なので現状で本作が咎められるような要素はない。彼らが作りだしたものから生じた結果についての想いは、本編にも描かれていたと思う。

 後半はオッペンハイマーというより暴かれるストローズの物語といっても良さそう。私怨でそこまでするかいなって気もするけど、でもあの時代だったらおかしくないのかも。危うい時代の空気もまた核兵器同様今の時代にも通じるものがある。すべて地続き、と思うと背筋も寒い。

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原題:Oppenheimer 監督:クリストファー・ノーラン 2023年製作
出演:キリアン・マーフィ、ロバート・ダウニー・Jr、エミリー・ブラント、ケネス・ブラナー、ラミ・マレック、ケイシー・アフレック、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネット

@109シネマズプレミアム新宿 4/7鑑賞

4/05/2024

クイーン:ロック・モントリオール1981


 1981年のクイーン、モントリオール公演のライブを収めた映像。元になっている公式市販ソフト「伝説の証」の解説によれば35mmからのレストア映像にオリジナル音声をリミックスしたということだけど、それをIMAXフォーマットで上映したもの、という認識でよいのだろうか。ひょっとしてこの前のライブでロジャーがヤング・ワン!といって映し出していたのはこれのドラムソロからもってきた映像なのかしら??
 いずれにしてもクイーンの最盛期最高のパフォーマンスと名高いライブ映像が、こうして来日公演の興奮も冷めやらぬうちに期間限定でも公開されたのはタイムリーというか、便乗というかドジョウ?的なものも感じなくはないけれど、フレディの歌声に臨場感に溢れた環境で触れたいファンの想いを叶えるような上映ではあったと思う。映像はこれまたすごくきれいだし(だけど観客だけが映るシーンはあんまり気張って直されていない気も…)、音も当然すごくいいのでIMAXで観る価値はありでした。ちなみに自分が最初にして最後になった生クイーンのライブはこのツアーの日本公演だったので、遠い記憶が蘇るようでもありました。「ライブ・キラーズ」に準じていたセットリストの運びやら「ボヘミアン・ラプソディ」のオペラパートでメンバーがいなくなったステージでライティングだけがペカペカしてた様子とか。

 大昔にはそれこそ今でもしょっちゅう登場するクイーン初来日時のお茶会風景も含めたフィルムコンサートっていうのがあったんですけども、もう雲泥の差というか比べ物にならんほどいい劇場で、画も音も良いライブが楽しめるなんていい時代になったなーのひと言ですね。

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監督:ソール・スイマー 1981年製作
出演:クイーン
@109シネマズ二子玉川 2024.02.26鑑賞


4/03/2024

WANDA ワンダ


 ペンシルバニアの炭鉱の町に暮らすワンダ。彼女に愛想を尽かし外に女を作って家を出ていった夫は裁判所に離婚を申し立てている。出廷の日、街へ出ていく金もないワンダは近所で石炭拾いをしている老人から小銭を借り、ヘアカーラーを巻いたまま裁判所へ出かけるが、夫の言い分に反論もせずあっさり結婚も子どもたちの親権も手放す。元の職場へ給料の支払いと再雇用を頼みに行っても「使えないから」とあしらわれて追い出され、バーで知り合ったセールスマンと行きずりの関係を持ってもことが済めば置き去りにされ、ひと休みのつもりで入った映画館では眠り込んだ隙になけなしのお金をすられてしまう。どこまでも踏んだり蹴ったりで八方塞がりのワンダだが、偶然入ったバーで強盗の場に居合わせたことからその犯人ミスター・デニスとの犯罪逃避行が始まる。

 ワンダは語られないその過去にも原因があるのかもしれないけれど、端から見れば失礼ながら怠惰なひとにも見える。今どきは何やらカテゴライズされる症状もあるかもしれないけれど、保守的な時代の目線からしたらいわゆる人並みのこともきちんとできない変わり者、というより単純にダメ人間にも見えてしまう。
 だけど、おそらく自分でも諦めてまわりに流されてきた彼女が犯罪にはからずも加担して自主的に動かざるを得なくなってしまったとき何かが変わる。ミスター・デニスと行動をともにしてからも従属的な関係は続いていたけれど、押し入った先の銀行支店長宅でミスター・デニスのピンチを救うべくとっさに銃を突きつけたあと、彼に「よくやった」と褒められたときの少女のようなその瞳の輝きが印象的だ。したこともない車の運転を任され、「役割」を与えられて決行するはずだった大きなヤマ。それが叶わなかったあと、彼女の心には何が残るんだろう。

 すべてが終わり見知らぬ女に誘われ同席したバーで空虚な表情を浮かべるワンダに様々な思いが浮かんでしまう、不思議なテイストの作品。時代的にも最後の突き放し感も「ニューシネマ」って単純に連想してしまうけれど、そこまでは乾ききっていないような、ほのかな温かさが感じられるような。ワンダと同様、多くは語られなくともミスター・デニスにしても強盗に手をそめざるを得ないわけがあったのだろうね、きっと。

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原題:WANDA 監督:バーバラ・ローデン 1970年製作
出演:バーバラ・ローデン、マイケル・ヒギンズ

4/01/2024

エリック・セラ & RXRA


 久しぶりのビルボードライブでエリック・セラを観てきた、というか聴いてきた。自分のイメージの中ではエリック・セラって基本はキーボードのマルチプレイヤーと思いこんでいたのだけれどベーシストだった。

 セットリストはもちろん彼が手掛けてきたベッソン作品のサントラ曲が中心で、「ニキータ」「フィフス・エレメント」にシルク・ドゥ・ソレイユ(の公演に登場しアクシデントで死んじゃったウサギちゃんに捧げた曲)や007のテーマ曲に「レオン」、アンコールもどこかで聴いたメロディー、なんだっけ!?と もじもじ。アンコール前の最後はベッソン最新作の「ドッグマン」だったのかな(観ていないからわからないけど)。
 普段のサントラで聴くよりもずっと大胆なモダンジャズっぽいアレンジが施されていて熱っぽいプレイは大いに魅せられ聴かせてもらった。あとから調べたところによれば今回のメンバーは皆さんジャズ畑の人のようだけど、キーボートのティエリー・エリエスさんはキース・エマーソンとキース・ジャレット足して2で割ったみたいですごかった。観たのは最終日の最後のステージだったけれど、1st, 2ndでセトリを変えていたというレポートもありもっと聴きたかったなあとちょっと後悔。でも、イントロからして思わず涙がこぼれるほど感激した「グラン・ブルー」が聴けたからとても満足。後援にWOWOWが入っていたようだけどあとで放送してくれないかな。

@ビルボードライブ東京 3/29 2nd


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