5/12/2024

異人たち


 少年の頃に交通事故で両親と死別した脚本家のアダムは、ある晩同じ高層マンションに住む青年ハリーと出会うが、それ以降彼の生活に変化が起こる。両親を題材にした新しい脚本の執筆に煮詰まっていた彼は意を決してかつて暮らした郊外の家を訪れるが、そこで突然生前と同じ姿をした両親が彼の眼の前に現れ、大人になった彼を温かく迎え入れたのだ。そしてアダムは自分より若い両親と空白の年月を埋めるかのように交流するようになり、ハリーとも親密な関係を持っていく。

 たぶんアダムの住んでいる、ハリーのほかに住人の姿はない高層マンションもなにかのメタファーなのだろうけれど、両親の事故死以前から彼にはひとり抱え込んできたものがとても大きかったのだろう。学校で受けるいじめや他者に打ち明けられない辛さや寂しさなどどうしようもない諦めに近い感情は、自身が成長するにつれ生きていくための防衛手段として彼を内向的にしていったのかもしれない。そんなふうにして生きてきた彼のもとに、ふいに好意というより欲求をあらわにしたハリーという存在が現れたことで、アダムは自分も踏み出せるかもと行動に移す。両親に自分がゲイであることとを素直に話して得られた抱擁。両親が最初っから物分かりよろしく手放しで受け入れるのではなく、戸惑いを見せてものちに正面から受け止めてくれるという展開もアダムにとっては理想だったのじゃないだろうか。おそらくハリーにとってのアダムもそんな対象だったのだろう。ハリーの存在も、ひょっとしてアダム自体もどこまで現実なのか境界線があいまいなのだけれど、寂しさを抱えたそれぞれに訪れるファンタジックな展開がじんわりと心に残る Power of Love。

 舞台劇にしてもいいくらいごく少数の登場人物だけど、揺れる気持ちの繊細な描写など4人ともしっくりきたしとてもうまかった。80年代UKサウンドも懐かしい。未読未見の原作と大林作品もチェックしなくては。

追伸

 原作読了。ストーリーの流れなどはほぼ原作を踏襲していて、両親にも恋人にも優しい物語になっていたことにとてもいい翻案だったなと改めて思った。もう一度みたい。

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原題:All of Us Strangers 監督:アンドリュー・ヘイ 2023年製作
出演:アンドリュー・スコット、ポール・メスカル、ジェイミー・ベル、クレア・フォイ
@109シネマズ二子玉川 2024.5.1鑑賞


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