4/03/2024

WANDA ワンダ


 ペンシルバニアの炭鉱の町に暮らすワンダ。彼女に愛想を尽かし外に女を作って家を出ていった夫は裁判所に離婚を申し立てている。出廷の日、街へ出ていく金もないワンダは近所で石炭拾いをしている老人から小銭を借り、ヘアカーラーを巻いたまま裁判所へ出かけるが、夫の言い分に反論もせずあっさり結婚も子どもたちの親権も手放す。元の職場へ給料の支払いと再雇用を頼みに行っても「使えないから」とあしらわれて追い出され、バーで知り合ったセールスマンと行きずりの関係を持ってもことが済めば置き去りにされ、ひと休みのつもりで入った映画館では眠り込んだ隙になけなしのお金をすられてしまう。どこまでも踏んだり蹴ったりで八方塞がりのワンダだが、偶然入ったバーで強盗の場に居合わせたことからその犯人ミスター・デニスとの犯罪逃避行が始まる。

 ワンダは語られないその過去にも原因があるのかもしれないけれど、端から見れば失礼ながら怠惰なひとにも見える。今どきは何やらカテゴライズされる症状もあるかもしれないけれど、保守的な時代の目線からしたらいわゆる人並みのこともきちんとできない変わり者、というより単純にダメ人間にも見えてしまう。
 だけど、おそらく自分でも諦めてまわりに流されてきた彼女が犯罪にはからずも加担して自主的に動かざるを得なくなってしまったとき何かが変わる。ミスター・デニスと行動をともにしてからも従属的な関係は続いていたけれど、押し入った先の銀行支店長宅でミスター・デニスのピンチを救うべくとっさに銃を突きつけたあと、彼に「よくやった」と褒められたときの少女のようなその瞳の輝きが印象的だ。したこともない車の運転を任され、「役割」を与えられて決行するはずだった大きなヤマ。それが叶わなかったあと、彼女の心には何が残るんだろう。

 すべてが終わり見知らぬ女に誘われ同席したバーで空虚な表情を浮かべるワンダに様々な思いが浮かんでしまう、不思議なテイストの作品。時代的にも最後の突き放し感も「ニューシネマ」って単純に連想してしまうけれど、そこまでは乾ききっていないような、ほのかな温かさが感じられるような。ワンダと同様、多くは語られなくともミスター・デニスにしても強盗に手をそめざるを得ないわけがあったのだろうね、きっと。

にほんブログ村 映画ブログへ

原題:WANDA 監督:バーバラ・ローデン 1970年製作
出演:バーバラ・ローデン、マイケル・ヒギンズ

0 件のコメント:

コメントを投稿

popular posts