3/20/2024

PERFECT DAYS


東京都内で公衆トイレの清掃員として働く、ひとりの寡黙な男の日々の生活を描いた作品。

 東京の下町、隣人が表をほうきで掃く音で目覚める主人公・平山の一日は規則正しい。身支度をして出かける前に空を見上げては「今日もいい日だ」と言わんばかりに微笑み、仕事の昼休みには公園の木々に目をやり日々移ろう木漏れ日を写真に収める。仕事が終わって銭湯帰りに行きつけの店でいつもの一杯と肴、自宅に戻って布団に寝転がりながら読書し眠くなったら眠る。つましいながらもその毎日は充実しているように見えて、まさにコピーのいうところの「こんなふうに生きていけたなら」と単純に思ってしまう。でも物語が進むうちに語られることのない彼の過去に想像が及ぶ。突然訪ねてきた姪っ子に、彼女を迎えに来た母親である自分の妹、なにやら平山にはわけがありそうで、今の生活もなるがままの生活を楽しんでいるというより、その前にあったのかもしれない「自制」であったり何かしら自身に対する罰もしくは戒め的ストイックさがあったのかしらと。そう思うと「こんなふうに生きていけるかしら?」とちょっとだけ意地悪な想像にもぶれてきそうだけど、それを乗り越えたところに平山の今の生活があるのならやっぱり肯定的に取るべきなのだろう。
 リズムを乱さず続いているように見える生活の中で、ときに仕事で相棒にバックレられたり、疎遠にしていた身内が不意に眼の前に現れたり、親しい人の生っぽい現場を目撃したり、よく知らない他人の人生を垣間見て思わず手を差し伸べたり。さざなみたちかけた心の中が凪の状態に戻り、自分のペースを無意識のうちに感じとれたときに、人はああこれでいいんだなって思うのかもしれない。ちょっと違うかもしれないけれど「小確幸」ってこういうことかなとも思った。そんなことを思わせた最後の役所さんはやっぱり圧巻だった。

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原題:PERFECT DAYS 監督:ヴィム・ヴェンダース 2023年製作
出演:役所広司、田中泯、中野有紗、石川さゆり、三浦友和
@109シネマズ二子玉川 2024/3/10鑑賞


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