6/09/2023

西部戦線異状なし(2022)


 過去2度映画化されたレマルク原作による第一次世界大戦に従軍したドイツ人青年の物語。過去の作品はアメリカ映画だったが今回はドイツ映画で、原作にはなかった司令部による停戦交渉のシーンも加わっている。英国アカデミー賞では脚色賞も受賞。
 出だしの無音の緑豊かな森の中の動物の生態からやがて少しずつ砲弾の音が聞こえてきて、森も何もかもが焼き尽くされただけの戦地の様子にカメラが動いていくところから一気に物語に引き込まれる。

 第一次世界大戦は初めて殺傷能力の高い大量殺戮兵器が登場した戦争で、にも関わらず各国が多数の戦闘員を戦場に送りだすなど、統計が取られてきたかどうかの違いはあるにしろそれまでの戦争とは比較にならないほどの戦死者を出した。イギリスやフランスではのちの第二次大戦よりも多くの兵士が犠牲になり、今も「終戦記念日」というと第一次大戦が終結した11月のほうを指すという(Remembarance day 11月11日)。古代から戦闘には戦う双方の民が兵士として湯水のように注ぎ込まれてきたけれど、産業革命後の恩恵で新たに開発された様々な兵器が登場し一層の「非人間性」が加わった第一次大戦はパンドラの箱を開けてしまったということだろう。
 騎士道精神的な憧憬または理想に燃え、煽る教育者なり施政者の口車に乗せられて軍へ志願し戦場にやってきた多くの若者たちが、膠着状態に陥った戦線から数メートルも進軍できずに無惨に命を落としていく中、「何の異常もない」と報告を受けた祖国では次々に新兵をスペアよろしく戦場へと送りこむ。戦場にやってきて初めて戦争のリアルを知った若者たちが自らの体験や感情を祖国へ持ち帰り伝えることはあまりない。多くが命を落とし軍からの慰めの言葉と認識票で家族のもとへ帰るだけだから。

 兵器の形が変わったとは言えそんな戦いは21世紀のこの現代でも繰り返されている。得をするのは一体誰なのか。自ら選んで戦うことを職業にする者もいるかもしれないが、疑いを持つことすら許されず強制的に動員され、好むと好まざるとその現場を負わされ犠牲になるのは、今も昔も立場が弱かったり年齢が若かったりするだけの普通の人々だろう。そんなことを繰り返してはいけない。この作品がこれまで作られた若き一兵卒の目からの物語だけでなく、停戦交渉に動く人々と譲らない軍部のエゴを描き、今の時代にリメイクされたことは大きな意味があったと思う。
だからきちんと劇場公開してほしかったし、そうされるべきったと思わずにはいられない。

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原題:Im Westen Nichts Neues 監督:エドワード・ベルガー 2022年製作
出演:フェリックス・カマラー、アルブレヒト・シュッフ、ダニエル・ブリュール
Netfilx鑑賞

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