7/29/2022

歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡


 「パタゴニア」「ソングライン」などの紀行作家チャトウィンが没して約30年。生前から親しい付き合いのあったヘルツォークが改めてチャトウィンの足跡を見つめたドキュメンタリー。

 ヘルツォークの作品というとクラウス・キンスキーが主演した『アギーレ』『ノスフェラトゥ』『フィッツカラルド』あたりが有名なのだろうけれど、中編長編のドキュメンタリー作品もたくさん撮っていて、その題材の多くは自然というか辺境の地を描いたものだったりする。ヘルツォークとチャトウィンが共にそういった土地に惹かれさまう者どうし親しく語り合っていたことは1,2年前に邦訳の出た伝記本にも記されていた(その著者ニコラス・シェイクスピアも本作に登場する)。本作でたどられる足跡はパタゴニアやオーストラリア、チャトウィン夫妻が住んだウェールズの村など。チャトウィンその人を映し出した映像はほとんど登場しないけれど、彼にまつわる人々を訪ねたり著書を読み上げたり、そして「ウイダーの副王」を原作に撮られた『コブラ・ベルデ』の台本に細かく残されたチャトウィン自らの書き込みに目を細めるヘルツォークの姿が印象的だった。彼にとってこの作品は友情の証のような、オマージュ作品なのだろう。
 パタゴニアを語る際に挿入されていた海辺の先住民たちの写真が『真珠のボタン』と同じものだったと思うけれど、グスマン監督とチャトウィン/ヘルツォークのとらえかたをもう一度並べて読んでみたいと思った。あえてその土地へ向かったものと去らざるを得なかったものの視点の違いもありそうで。

原題:Nomad: In the Footsteps of Bruce Chatwin
監督:ヴェルナー・ヘルツォーク 2019年製作
(ドキュメンタリー)
@岩波ホール 7/27鑑賞

 本作が岩波ホール最後の上映作品で、劇場は7月29日をもって閉館になる。『真珠のボタン』もここでの上映作品だった。岩波ホールはインターネットでちまたの情報が溢れまくる時代の遙か昔から、世界各地のさまざまな映画に光を当てて、それが集客的に厳しかろうが大入りになろうが一作一作を丁寧に観客に届けてくれた、映画の灯台のような存在だった。閉館が決まって報じられたときには「役割を終えた」と記された記事も多々見かけたけれど、こんな時代だからこその確かな灯台は必要ではなかったか、と今も残念でならない。

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