3/22/2018

スリー・ビルボード

 娘を殺害され7か月が経つのに犯人逮捕の手がかりすらつかめない状況に業を煮やした母親ミルドレッドは、らちのあかない捜査に発破どころかまさに時限爆弾を仕掛けるようなラディカルな行動に打って出る。日常的な差別的行為や暴行などやる気のない町の警察組織の中でも唯一住民からの人望も厚い署長ウィロビーを、娘の遺体が発見された場所に立つ古びた3枚の看板広告枠を買い取り名指しで非難したのだ。それまでの被害者の母親として住民から同情されていた立場から一転し、ミルドレッドは物議を醸す存在となる。

 オープニングのF・マクドーマンド扮するミルドレッドのハードな佇まいからしてニューシネマというか西部劇っぽい雰囲気が伝わってくるような、いかにもアメリカ的な匂いのする作品。

 周囲からの懐柔を全く聞き入れないようなストレートすぎる物言いや行いで完全武装しているようにみえても、娘の生前最後にかけたひどい言葉を悔やんでも悔やみきれず後悔と哀しみでいっぱいのミルドレッドの心は、ほとんど童話「北風と太陽」のような状態でいる。そこで「太陽」の役割を果たすのがガンを患い余命宣告も受けている署長ウィロビー。ミルドレッドの願いを聞き入れて看板を貸した広告代理店のレッドと警察署内でも際だって素行の悪い巡査ディクソンの関係も同じような立ち位置として描かれる。怒りや後悔で周りが見えなくなっているときには小さなことでも心理的に大きな動揺になって行動に出てしまいがちで、そこで意図せずもしくは意図して必要以上に誰かを傷つけてしまい、なのにその相手からはからずも手を差し伸べられた時。ミルドレットと署長、署長とディクソン、ディクソンとレッド、それからミルドレッドと別れた夫などなど、揺れ動き変化を見せてゆく登場人物たちの心の描きかたが絶妙。陰惨な事件の描写をあえて具体的に見せなくても感じられる闇の深さ、また、登場人物たちのちょっとしたセリフのおかしみなどやっぱり脚本がいいんでしょうね。復讐はすると思うよ、あの二人。

 オスカー獲得の二人、共に候補になっていたW・ハレルソンの主要キャストもだけど、周囲のキャストも納得のうまさ。

原題:Three Billboards outside Ebbing, Missouri
監督:マーティン・マクドナー 2017年製作
出演:フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル
@TOHOシネマズ・シャンテ にて

0 件のコメント:

コメントを投稿

(※営利目的、表題に無関係な主義主張・勧誘のコメントは削除します。ご理解ください)

popular posts