夜明けのハバナ。小学生くらいの少年を起こして着替えをさせ、朝食をとらせる祖母。朝から二人ぽっちの朝食と二人が学校へ出かけてから奥から起きだしてくる祖父。家庭の内情はともかく映し出される普通の朝の風景とやがて次々と映し出されていくハバナの町と登場人物たち。かかとのかなり高いハイヒールを手に自転車で町をかけていく青年、公園に設置されたジョン・レノンの像の正面に陣取ってなにやら交代で張り込んでいる人々、そんな公園のそばでかごを手にたたずんでいる老婆、鉄道で肉体労働に従事する男、なにやら曰くありげな悲しい瞳で宙を見つめている男などなど。セリフはほとんどなくて聞こえてくるのはいたって普通の生活音。学校の先生が授業をする声や昼下がりのテレビやラジオから流れてくる曲を背景にどこにいても目にできそうな日常の営みが映し出されますが、昼になり午後になり時間が進んで行くに連れて映し出される人々がどんなことをしていて、登場しているほかの人々とどんな関係にあるのか画面を見ているとだんだん分かってきます。そしてそれらの人々に対して最初に抱いた印象とやがて明らかになってくるそれぞれのもう一つの顔にふとほほえんだり、何とも言えない気分になったり。
たぶん舞台がハバナでなくても世界中のどこでもさりげなくて、だけど胸を突かれるようなひとつひとつのエピソードはあるでしょう。でも公園に置かれたレノンの像、そして多くの家のひなびた壁に掲げられたチェのポートレイトだけでなんだか特別なものを感じてしまいます。かつて夢を体験した国、実現させようとした国で個々に小さな夢を抱きながら日々生きている人々。そして夢はもうない、と語る人。使い古された言葉ではあるけれど、それでも、そして、人生は続き、町の鼓動も続いていくんですね。
劇中で流れるシルビオ・ロドリゲスの「蝶」の歌詞には泣けました。
切なくて愛しくてたまらない作品。
原題:SUITE HABANA 監督:フェルナンド・ペレス 2004年製作
ドキュメンタリー
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