10/27/2004

見知らぬ女からの手紙

  昨年アジアの風部門に初監督作品の『私とパパ』を出品した女優シュウ・ジンレイの監督第2作目にして主演作。原作はオーストリアのシュテファン・ツヴァイクの小説『未知の女の手紙(Brief einer Unbekannten) 』でハリウッドでも映画化されているそうです(『忘れ時の面影』)。

 となりのお屋敷に戻ってきた外国帰りの若旦那。塀の向こうから聞こえてくる蓄音機の音楽に幼い少女は貧しい自分の生活とはかけ離れた、異国の香りに憧れを抱きます。そして毎晩美しく着飾った女性を伴って屋敷に帰ってくる若旦那を、窓越しに見つめているうちに少女はいつか自分も彼にふさわしい女になりたいとほのかな恋心を募らせるように。お屋敷の側から母親の田舎へ引っ越した数年後、美しく成長し短大生となった彼女は夢を抱いて彼の目の前に現れるわけです。

 そんな彼女の気持ちを知るよしもなく、元からきれいなねえさんに目のないバカ…もといワカ旦那は何も知らずに彼女を気に入り、彼女/彼の思惑通り二人は関係を持つ。だが彼女にとって長年大事にしてきた願いを叶えたという思いもあったかもしれないけれど男にとっては屁でもなく、彼女が自分のことを伝えそびれたこともあってか元々女癖の悪いところを改めるでもない。

 普通そこでなんかしら女の心に変化があっても良さそうなものかと思うんですが、その後が不可解。そんな男の様子に失望したのかそうでないのかは微妙だけど男の側を離れたあと彼の子を宿していると知った彼女はひとり子供を産み、数年後素知らぬふりしてまた男へ接触を試みる。

なんで?

 別に女は男に対して復讐するわけでもない、ただ単に自分の存在を認めてほしい、想いを感じ取ってほしいってことで毎月1度花を送っちゃったりしてると思うんだけど(それも初めて寝たあとに男が一輪手折ってくれたのと同じような花)、奴はそんな繊細な男じゃないってなんでわかんないのかねと思いつつ観てました。

 だいたいですねぇ、彼と彼女の2度の再会、少女から短大生までの成長の間に外見的にも大きな変化があってそれで誰か分かんないっていうのは十分ありえると思うけど、ある程度の年齢になった成人女性がいくら子供を産んで数年後とはいえ(って子供の歳からして短大生の時に関係を持ってから二人の再開までわずか5、6年だと思うんだけど)、男のほうが全く気がつかないというその設定ってありえなくないです?彼女が整形でもしない限り。再会しても十分に「あ、お久しぶりね」で済むような期間だと思うのよ。男の方がよっぽど健忘症というかボケてる、もしくは彼女を全く一夜限り同然の相手としか思ってなかったってことじゃないのかなぁ。最初、彼女が手紙を送ってくる場面では男の表情が映るでもないので、てっきり別れて何十年も経った老いた彼の元にそれが届くのだとばかり思いこんでいたけれど、どうも違うらしいと分かった時には???と思ってしまったのでした。もし自分が字幕を見逃していたり誤解したり、過年による忘却だったら申し訳ないけれど。男ってあそこまでバカなもんですかね? 彼の屋敷の使用人さんは分かってた=傍目で見ればすぐにわかることなのにダンナが気がつかなかったってことはやっぱりそういうとらえ方をしていなかったということではないのかなあ。それを認めたくない女心の未練でしょう~♪を描いた作品なのでしょうか。

 すっごい乱暴なまとめ方すれば「わたしは恋心を抱き続けていたのにわかってくれなかったあなた、もういいわ、大事な我が子を失った今、わたしはようやく区切りをつけてひとり生きて行きますさようなら。でもこんな女がいたことは分かってね」っていう手紙を送りつけてきた女の人の話だと思うんですけど、男のほうをバカで不実だと思う以前に 彼女のやり方を一途というより何だか陰湿という印象を持ってしまいました。そんな風に感じるわたしの方が古風な忍ぶ恋を理解できない、女心を察せない鈍い女なのか。それにしたってその描き方の視線みたいなものがなんか雑、というか一方的に都合がよいような。この後味釈然としない感って同じようなのなんかあったよな…って思ったらあの『楽園の女』。そういえばあちらも製作には主演女優さんが関わっていたんだっけ。あんまりにも繊細すぎたり妙にリアルだったり女心の描き方/なぞり方のうますぎる男性監督さんも場合によっては気持ち悪いけど、その辺女性の製作者さんの方が気の配り方が足りない/説明不足/一方通行の雰囲気だけというか…。そんな風に思った作品がたまたま中国の女優さんの撮った2作だったというだけかも知れないですけども。

 あぁ言いたい放題になってしまいました。すんません。でもわたしには正直、この女性の心理がわかりませんでした。というか、あまりわかりたくなかったかも。でもカメラはきれいな作品でした。あと少女時代の彼女を演じた子がうまかったです。

原題:一個陌生女人的来信 LETTER FROM AN UNKNOWN WOMAN

監督:シュウ・ジンレイ 2004年製作

出演:シュウ・ジンレイ、チアン・ウェン

@第17回東京国際映画祭 アジアの風部門

 (2004.10.23~10.31開催)

追記:2008年DVDリリース

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