言わずと知れた革命家エルネスト"チェ"ゲバラが青年期に体験した手記「モーターサイクル南米旅行日記」に基づくロードムービー。オンボロバイク、ポデローサ号にまたがってブエノスアイレスからカラカスを目指す南米大陸縦断の旅に出た医学生エルネストと年長の友人アーネストが旅先で遭遇する人々。かつての帝国の都で工芸品を売って細々と生活を営んでいるクスコの人たちであったり、住み慣れた土地を共産主義者だというだけで追われたインディオの夫婦やアマゾン川の奥地に隔離され治療を受けているハンセン氏病の人々などとの交流を通じて南米の現実に目を向けることでそれぞれの進む方向が定まっていく様子が描かれます。
ゲバラというとひとえにあの有名な「ゲリラ・ヒーロー」と題されたポートレイトの精悍なビジュアルのカリスマ的なイメージから、今どきの若者のTシャツやらはたまた某Jリーグ・サポのフラッグにも描かれたりして正直日本ではファンション的なアイコンのような感じがするし、もしくは武闘派ゲリラのような過激な戦士・闘士のイメージをわたしもかつて抱いていたんですが、彼の著書を読んでみると貧しい人々を解放し、それなりに幸せな暮らしを送れる社会を目指して武器を手にしたインテリ、というか理想/夢想家というような印象を持ちます。もちろん実際にはきれい事ばかりではなかっただろうけれども。
以前にみた幼年期にチリ革命を経験しやがてクロアチア紛争に身を投じるハンガリー系男性を描いたフィクション「チコ」という映画の中ですごく印象的に残ったセリフがありました。正確には覚えていないのだけれどたしか「列車に乗る人々が身を乗り出して風に髪をなびかせる。そんな自由のためにゲバラは闘った」といったような内容だったような。もちろんそれってあの作品のために書かれた脚本のセリフではあるのだけれど、彼にとっての解放のイメージはたとえば戦闘の合間の移動でラバの背に揺られながらそよ吹く風が頬を撫でるとか、もしかしてバイクの後ろにまたがって風に身を任せることであったり、そんな感覚として捉えていたのかなと、この映画の映像を見ていたら何となく的を射たセリフとして思い出されました。
映画のクライマックスで描かれる療養所を離れる前日、エルネストの誕生日とお別れを兼ねて行われたパーティの最中に、彼が川の向こうに隔てられたハンセン氏病棟の人々とも誕生日を祝いたいとぜんそく持ちの身を省みずに真夜中の川へ飛び込む場面にはぐっと来ました。原作にはなかったような気もしますが…。それでも映画を観た後にでかけたゲバラ写真展で革命後のキューバの農場で土埃まみれでトラクターを運転してるチェの姿を見たら、川へ飛び込むそんな件もほんとにあったかもしれないなぁと納得。
でも一番印象的だったのは映画の最後に登場する実際にチェと旅に出て、今もご健在のアルベルトおじいちゃんの遠い目。空の上からチェは今の世の中をどんな風にみているのかしら。
若きエルネストを演じたガエルくんは期待通りでした。正義感あふれるチャーミングな熱血漢。時にはラテン男らしく人妻に言い寄ってみたり、恋人からの別れの手紙に落ち込んでみたり、等身大の青年エルネストを見事に演じていたと思います。次はデルトロがチェを演じる「CHE」が楽しみなんだけど…いつ完成するんですかね…。 (@恵比寿ガーデンシネマ)
原題:THE MOTORCYCLE DIARIES 監督:ウォルター・サレス 2004年製作
出演:ガエル・ガルシア・ベルナウ、ロドリゴ・デ・ラ・セルナ、ミア・マエストロ
0 件のコメント:
コメントを投稿
(※営利目的、表題に無関係な主義主張・勧誘のコメントは削除します。ご理解ください)