記録映画、ドキュメンタリー映画というよりも想像以上に大統領選向けのアンチ-ブッシュ推進プロパガンタ色が濃い作品でした。連想したのは選挙が近づくとよく報道でも取り上げられるバッシング宣伝ですね。この作品が100%そうだとは断言できないけど大方そういう意図をふくんだ映画、というか宣伝/告発と言ってしまっていいでしょう。比較広告とか中傷広告を見慣れていない日本人のわたしにはあのメディアを使った中傷合戦を繰り広げる彼らのメンタリティというのは全く理解できないので、よって良くも悪くも映画として評価できる作品ではありませんでした。
ほとんど既報のニュース映像で綴られる同作はブッシュ家や石油業界、政府官僚など周りを取り巻く事実の列挙にしてもイランで戦う兵士たちの様子にしても報道特集拡大版でもみているようでした。後半挿入されてる監督の地元に代表されるような土地の低所得者へのスカウティングや、戦争に従軍したわが子を亡くした母親や議員たちへの取材さえもどこか言葉は悪いけど添え物のようでもあったし。うまくまとめた編集なのかも知れないけど構成力は「ボウリング・フォー・コロンバイン」のほうが勝ってたと思います。新たな怒りを抱くよりも改めて呆れるというか、ますます嫌悪感どんよりムードに陥ってしまうかも。
観ないよりも観たほうがよい映画なんだろうけれど、日頃の報道で勝手な不条理に対して憤りを感じることのできる私たちなんかよりもこの作品を観るべき人たち、そしてムーア監督が狙ったところのターゲット層やそれによる目的はあからさまに明確。なのでそれ以外のよその国の人たちはアメリカが変わってくれることを願いつつも軽い傍観感覚を抱くのではないでしょうか。
超大国を取り仕切るのが嫌悪感をもよおして鼻から息が漏れるほどのこんな間抜けな連中だってことに対して国際世論がいくらノーと言ったところでどうなるものでもない現状では(だってまわりがヤダだって言ったって勝手に戦争しに行っちゃうんだもの)、結局当事者であるアメリカの人たちに「てめえでカタつけてくださいよ、奴を選ばないで下さいよ」としか言えないよ。
作品がカンヌに出品されたのは愚かな大統領の恥をさらすことによって外圧をかけること、話題を集めて集客を図ることなどが一番の目的だったんでしょうけれど、映画業界が利用されたみたいで実はやな感じがしてました。もちろん話題作を公開することで甘い汁を吸える映画関係者もいるのも当然ですが。それでも映画として観た場合「ボウリング〜」のほうが明らかにまとまっているし、「Anybody but Bush」の一念のみで突っ走っているこの作品の熱にあてられて賞をあげてしまったカンヌは(…というか今年の審査員団になるのかね)冷静な映画を観る目を欠いていたとしか思えず、ほかの作品にとっては不運というか災難だったと思います。
ブッシュを支持する共和党・保守派の人々は映画、というか同類の中傷広告をみたって支持を変えることはないだろうし、それ以前に我が国の首相に代表されるようにまず観にいかないだろうし、結局無党派というか浮動票にどう影響するかということかと思うけど、Anybody 〜という言葉のままに票がまたもや割れちゃって結局まとまった票を得るのがブッシュだったなんてことになってしまったら元も子もないと思うけど。カンヌで賞をもらってどんなに話題になっても この作品が果たすべき目的を達成できなかった場合には、つまりブッシュを大統領の座から引きずり降ろすという結果が出なければ、正直あんまし意味がないような映画にも思うんですが(それも困るけど…)、もしそうなってしまった場合に世論は、そしてムーア監督はどうでるのか。2か月後が気になるところです。
とりあえず「変わってくれ、アメリカ」
(@銀座テアトル・シネマ)
原題:FAHRENHEIT 9/11 2004年製作
監督:マイケル・ムーア
8/31/2004
華氏911
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