6/05/2004

詐欺師

  昨年のインド映画祭で上映された「放浪者(AWAARA)」がすごく気に入ったとお話ししたら「機会があったらぜひ観て!」とご専門のMさんから勧められて以来ずっと気になっていた作品。今回フィルムセンターで上映されている福岡市総合図書館所蔵のアジア映画特集でようやく観ることができました。

 成功を夢見て故郷からボンベイにやって来た若者ラージ。大卒の証明書まで持ち歩き達者な口を駆使して働き口を探そうとするけれど、なかなか仕事は見つからないばかりか質屋で作ったなけなしの金までだまし取られてしまう始末。けれども「ボロは着てても心は錦」を地でいくような清い心を持つ彼に路上でスラム生活を送る人々もすぐにうち解け仲間として迎え入れる。彼に次第に惹かれていったのは父親と二人暮らしで貧しいながらも子供たちに勉強を教えているヴィディヤも同じ。いつしかふたりは将来を誓い合うように。

 ところがある日たまたま彼の手先の起用さに目をつけた成金ダンサーからいかさまポーカーを無理強いされたことがきっかけでラージの生活は一転。ダンサーや地元の有力な議員など金の亡者たちがうごめく華やかな世界に足を踏み入れたことで、出世の夢を未だ捨てきれなかった彼はためらいながらも有力者一味がグルになった詐欺行為に加担して成功していくが、やがてその搾取の矛先がかつて寝食共にしたスラムの人々に向けられた時、ラージはとある決心をする…

 『放浪者』の4年後、1955年製作のこの作品。やっぱりコテコテのマサラ・ムービーとはちょっと違ったなんとなく欧米の映画の香りをどこか感じます。歌と踊りのエンターテインを盛り込みながら人の善悪を描き、清い心の持ち主は結果的に救われ、貧富の差をなくしてよりよい社会をつくろうとスクリーンの向こうからラージが観客たちにわかりやすく呼びかける形式は「放浪者」この「詐欺師」ともに共通していると思うのですが、きっと人々の共感を呼んだでしょうし、彼はさぞかし愛されたことでしょうね。

 そんなわたしも『放浪者』で初めて観て以来ラージ・カプールにはメロメロ。人がよさそうな愛敬たっぷりの笑顔でコミカルなシーンを演じる姿は白塗りしなくてもチャップリンみたいなんですけど、モノクロで見てもきっとすごく澄んだブルーアイにもみえる明るい色の瞳がステキ(実際の色はカラー作品や写真を観たことがないのでわからない、、)。いかにも着の身着のままのホームレスっぽいよれった格好も可愛らしいというかクスっと笑いを誘うんですが、途中金持ちに成りすます変身前→変身後のメリハリがすごい!パリッとしたスーツもまためちゃ似合うというか本当に映えるんですよ、奥さんっ!! 

 楽しみにしていた挿入歌はトータルでは『放浪者』のほうが勝ちかも…というか向こうはとにかく名曲ぞろいなので比較するのもなんですが、「詐欺師」はいろいろなコラムでも目にしていたメインテーマが何と言っても印象的。 ♪日本製の靴に英国製のズボン、帽子はロシア製、だけどこの心は純インド製♪なんともすばらしいフレーズじゃないですかっ!!!当時大ヒットを記録したのだそうです。

原題:Shree 420 監督:ラージ・カプール 1955年製作
出演:ラージ・カプール、ナルギス、ナディラー
@アジア映画 ―“豊穣と多様”
 福岡市総合図書館フィルム・アーカイヴ所蔵アジア映画コレクションより
 (2004.4.27~6.27開催)

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