6/20/2004

  昨年の東京フィルメックスでも紹介された『大地』のマスード・キミヤイーによる1988年製作の作品。

 第2次大戦後のイラン、建国されたばかりのイスラエルへ移住を希望するも叔父が反シオニズムの活動を行っていたという理由で申請を断られるダニアルとムネスという若いユダヤ人夫婦。密航の準備を整えようと2人が自宅へ戻った矢先シオニストの放った殺し屋が叔父を殺しにやってくるが、その現場をたまたま通りかかった隣人ミルザが殺人犯として投獄される。殺し屋の顔を目撃したダニアル夫婦はトラブルを怖れ一刻も早く国外へ逃亡しようとその場を立ち去るが、ミルザの弟で新聞記者のヌリは兄の無実を証明するために夫婦を証人として法廷に立たせるべくその後を追う。

 あまりよく知らなかったのですがイラン国内にはイスラム教徒以外にも多くのユダヤ教徒が今も住んでいるのだそう。そういえば昨年のフィルメックスで上映になったアボルファズル・ジャリリ監督の「アブジャッド」も少年が恋をするのはユダヤ人の少女でそれ故に仲を引き裂かれたりしていたっけ。クリスチャンの神父様のお話は「マリアの息子」で描かれていたし、当たり前のことかもし得ないけれどなにもイランにいる人がみなムスリムとは限らないのでしょう。

 物語はイスラエル建国当時のシオニストの選別的な思想やらそんな同胞による差別をうけてせっかく創られた祖国に帰ることのできないユダヤ人夫婦のやりきれない悲しみを描くと同時に、自らも心に傷を負いながら兄の無罪をはらすために必死の追跡を続ける孤高の男ヌリの苦悩と戦いがノワール的に描かれ、シリアスな題材を取り上げながらも娯楽色の濃い、骨太のサスペンス/アクションに仕上がっています。劇中の曲の使い方といいい一瞬時代設定がいつなのかな、と考えてしまうほどモダンな雰囲気が漂います。80年代のイランにもこんな普通に楽しめるアクション映画があったんだなぁと再認識させられた作品でした。

原題:Sorb 監督:マスード・キミヤイー 1988年製作
出演:ハディ・エスラミ、ジャムシッド・マシャイエキ、ファリマ・ファルジャミ
@イラン映画祭2004


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