5/03/2004

エレファント

「ボウリング・フォー・コロンバイン」でも取り上げられたコロンバイン高校の事件を元に監督の故郷ポートランドを舞台にオーディションで選んだ普通の高校生たちによって演じられたフィクション。先に観た「殺人の追憶」同様に日常の中に潜む思いがけない、不意に起こってしまう事件、恐怖。でも向こうの作品に登場するのは普通の人の顔をして生活している変質者かもしれないけれど、こちらはその辺にいる普通の子供たち。それだけに根も深いしフィクションとはいえ無情を通り越した苦い苦い思いしか湧いてこない。世の中はいつから、何をきっかけに狂ってしまったの?

 今も昔もいじめはあっただろうし正直いえば自分もいじめられたことはある。でも相手を殺すまでのメンタリティというのがどういうものなのかわからない。殺人事件を起こすような子は人を殺すことをゲームと同じようにしか思っていない人でなしだから? 身近なところに殺しの道具があるから? いつでも通販で銃を買えるから? アメリカだから? もうちょっと我慢して時が過ぎるのを待てばもう少しましな人生だってあったかも知れないのに、結論として人を殺すことを選ぶしかなかった子たち。それほどまで追いつめられるほどの絶望しかなかったのかと思うとたまらなく辛くて涙が出た。

 親に転校させてと泣きついたことがある。カレンダーに×印をつけて卒業式が来るのを首を長くして待った。そんな自分にせいぜいできたのは卒業式の数日前に何か言ってきた男子に「あんたと顔をつきあわせてるのももう少しの辛抱なんだから」と捨てぜりふを吐くことぐらいだった。その時手元に刃物があったなら傷つけることまでできたのか。相手がどんなに憎たらしいいじめっこでも、クラス全員から口をきいてもらえなくてもたぶんそんなことはできなかったろう。でもずっとずっと年間通じてそんな目に遭っていたなら殺してやりたいと思う程までみんなを憎むことができたのか。それは正直わからない。わからない自分が情けなくて辛い。

 事件の日も日常があった。被害者、加害者問わずその視線の先にはいつもと変わらない空だったり、学校のグランド、校舎、教室、廊下がある。起きてはいけない事が起きてしまって親が「ひどい1日だったな」の一言で片づけてしまうそんな日常が怖い。それとも何か声をかけてくるだけマシなのか。やっぱり正直わからない。(@シネセゾン渋谷)

原題:ELEPHANT 監督:ガス・ヴァン・サント
出演:ジョン・ロビンソン、アレックス・フロスト、エリック・デューレン


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