代々伝わる民族の文化が滅んでしまうことを懸念してマオリの祖たるパイケアの生まれ変わりの男の子を心待ちにしている町の長であるじいちゃん。ようやく生まれた孫息子は死産でひたすら落胆し、息子はそんな生き残った双子の孫娘に目もくれようとしないじいちゃんの姿に落胆し町を離れます。女の子に祖先と同じパイケアと名前付けて。じいちゃんにしてみれば祖先の名を軽々しくつけられた孫娘パイちゃんこそが災いの元と思ったことでしょうが、なんだかんだ言いつつも毎日学校に送り迎えしたり10年間彼女をかわいがって育てます。でも久しぶりに帰郷した息子から外国の女性との間に子供が生まれる話を聞くと激怒。いきなりパイちゃんともども出ていけと口にしてしまいます。じいちゃんば祖先の純粋な血筋が残せない絶望と、息子は因習慣習にとらわれずに自分の道を歩みたいという互いに譲りたくない葛藤に苛まれていて、マオリとしてのアイデンティティーに目覚め何をすべきか意識しているパイちゃんに気づかない。
身内を跡継ぎにすることをあきらめて、よその子に長としてふさわしい人材がいるか見極めようと集中特訓を始めるじいちゃんは練習をのぞき見していたパイちゃんに「神聖な場を汚した!」と雷を落とす始末。マオリの儀式ってどうも女人禁制というわけでもなさそうだし、昨日までかわいがってた孫にそこまで冷たくあたらなくてもとは思いましたが、それだけじいちゃんの危機感が募ってたってことか。でも長が心を失っちゃいかんよね。パイちゃんにとってはそれは与えられた一連の試練だったけど、じいちゃんの仕打ちに傷つきながらも決してめげずに変わらぬ愛で応じようとする彼女の姿はけなげでとてもりっぱでした。
最後のシーン、じいちゃんの頑固さに一度は背を向けた息子をはじめ今どきの町の若者らが皆で大海原にこぎ出したカヌーの向かう先はマオリの人々の新しい未来なのでしょうね。
子供の頃、イルカに乗った少年は当然のこと(…)恐竜やら、象やら、トラなどなど何やら動物と心が通じることができて、その背中に颯爽とまたがる主人公がでてくる話を読んだりするたびにすごく憧れたものでした。クジラにまたがって海に向かうパイちゃんの姿はそんな夢が実現したようで非常に感激すると同時に、クジラの背から離れるシーンでは人はクジラにはなれない現実をみたような気もします。単なるファンタジーに終わらないところがより前向きな感じがしました。(@三軒茶屋中央)
原題:Whale Rider 監督:ニキ・カーロ
出演:ケイシャ・キャッスル=ヒューズ、ラウィリ・パラテーン、ヴィッキー・ホートン
3/25/2004
クジラの島の少女
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