5/25/2022

リマスター:ビクトル・ハラ

 調べ物をしていてたまたま行き当たったNetflixオリジナルのドキュメンタリー作品。

 チリのヌエバ・カンシオンの代表的なシンガーとして知られるビクトール・ハラが、1973年の軍事クーデターの際、アジェンデ政権支持者とみなされた多くの人々と共にスタジアムに連行され悲劇的な最後を遂げたことは映画や文献で知っていたけれど、ハラの妻やキラパジュンなど共に活動した音楽仲間の証言と共にあのとき何が起きたかが語られる前半にはあまりの凄惨さに言葉を失った。
 その後アメリカに渡った奥さんはピノチェト政権が終わったあと、夫の殺害に直接手を下した者を人々の協力を得ながら懸命に捜索し法廷の場に引き出すというのが後半なのだけど、そんな裁判が行われていたとは知らなかった。そして当時スタジアムを担当していた部隊の元兵士たちの証言によって、やはりアメリカに移住していたある人物が容疑者としてあげられ法廷でも有罪とされるのだけれど、本人は当然認めないし彼はアメリカ国籍を取得しているために有罪判決にもかかわらず現在もフロリダかどこかで普通に暮らしているとのこと。実際、裁判では元兵隊たちの証言が証拠とされたようだけど(作品では当時の具体的な記録も物証も示されていないように見えた)、最初にその人物を名指しした一番有力な証人とされてた人が「あれは彼(容疑者)に恨みがあったんでついつい名前を言ったのだ。だから間違いだった」とかあっさり偽証だと認めちゃうし、その後、かつて軍にいたころ容疑者が「自分がハラを殺した」と何度も自慢話を聞かされたという人も出てきて結局は有罪と出たけれど、真相はまだまだ藪の中という感じ。最初の証言者があっさり翻したのもなにかしら黒い理由があるのかもしれないし、どこか信用できないような…。もっと時間をかけて大規模で綿密な調査を行ったなら事実がより明らかになる日が来るのかもしれないけれど、すでに裁判の当時で90歳だという奥さんが存命であるうちにわかるといいなと願ってやまない。でも奥さんも言ってたけどハラのように遺体でも家族に身元を知らせることができた犠牲者はまだましで、パトリシオ・グスマンのドキュメンタリーでも描かれてるように行方知れずのままの人々をいまだに捜している家族もいるのだよね。あまりに罪深いピノチェト政権(怒)。
 にしてもクーデターって社会主義政権ができると不都合だったアメリカが後ろで糸引いてたというのが明らかになってて(この作品の中でも元CIAという男性がピノチェト側になんらかの提供を行ったことは認めてる)、容疑者のような元軍人はわかるけど、ハラの奥さんみたいな人までアメリカに移住していたのはちょっとびっくりしないでもなかったな。でも亡き夫の志を継いで後世に伝える使命を果たすには欧州よりアメリカの方がよかったのかしら。

 

原題:ReMastered: Massacre at the Stadium  

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