『光のノスタルジア』『真珠のボタン』に続いて劇場公開されたグスマンの遥けき故郷・チリを描くドキュメンタリー。
チリを南北に連なるアンデスの山脈はまさに背骨にあたる。グスマンにとっては二度と暮らすことのない祖国の象徴だ。南米大陸が作られた頃プレートが隆起してできあがった山脈はその場所に佇み紀元前千年も昔から現在に至るまでその麓や山々に暮らす人々の生活を見てきた。そこでどんな生活が営まれ、時には理不尽な血が流れようとも。
今回「証人」となるのはアンデスで削り出された石で創作活動を続ける彫刻家、歴史小説家、1973年の軍事クーデターで左派の老若男女が根こそぎ投獄され多くの命が奪われるなか、グスマン監督のように海外へ亡命したものの80年代に再び母国へ戻り、抵抗し続ける若者たちと軍部を映像に収め続けているカメラマン、幼い頃に目撃したクーデターの街や身の回りの様子を今も鮮明に覚えている人々。そして山に眠る豊富な銅など鉱物の資源で得た利益を国外ではなく国民のために分け与えようとしたアジェンデ政権をアメリカの後ろ盾のもと暴力で排除し、「新自由主義」で経済自由化を積極的に取り入れ利益を優先した結果、銅山の運営はほぼ海外資本に渡り国内では貧富の格差が広がったという事実。そんな話を聞いているとごく最近どこかで聞いた話がかぶって非常に苦々しいものがこみ上げてくる。
チリのクーデターは劇的という言葉で済ますにはあまりにも悲しく、あまりにもむごたらしいのだけれど、たとえ地球の裏側の出来事であっても歴史を学んで教訓とするということはすごく大事なことだと改めて思う。現在起きていることも含めて。そして作品中のカメラマン、パブロさんも言うように次の世代に伝えていくことはものすごく大切なことなのだ。
原題:La cordillera de los sueños 監督:パトリシオ・グスマン
2019年製作(ドキュメンタリー)
@下高井戸シネマ
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