1930〜40年代、その天性の歌声で白人黒人を問わず人々を魅了したビリー・ホリデイはアメリカの黒人差別に対する強烈なプロテストソングとも言うべき代表曲「奇妙な果実」と共に多くの同胞たちの支持と尊敬を集めていた。その支持が世論を揺るがすことを恐れた当局は、彼女の乱れた私生活に目をつけ、社会的地位を剥奪するべく手段を選ばず表舞台から遠ざけようとする。その役目を担ったのはビリーの才能を食い物にする夫であるマネージャーやプロモーター、そして白人社会での出世を望む若き黒人捜査官だったのだが…
BLMの影響なのか近年ドキュメンタリーも含め何作か作られているように思うビリー・ホリデイ関連の映像作品。あまりジャズ方面は詳しくない自分でも初めて「奇妙な果実」を聴いたときは、その作られた時代を思えば「よくぞ」をはるかに超えた軽々しく考えられないような強烈な重さを感じたものだったけれど、そんな曲の背景やビリーが歌うことになった経緯、社会的な影響をもっと深く知りたいと思ったらドキュメンタリーを見るのがよいのだろう。
タイトルから「米国」というものと激しくやり合ったビリーの闘いを想像していたのだけれどちょっと違ったかもしれない。本人もクスリに逃げてはやめてを繰り返す心の弱さのようなものはあったけれど、彼女がズタボロになりながらも闘っていた相手は、搾取や狡い罠を使ってでも貶めようとするひたすらクソすぎる男たちであり体制。ああそれが=かつての「米国」なのか。とはいっても、その辺、ビリーの時代も今もやっぱりこちらも(WSS同様)ほとんど変わっちゃいないのが悲しい。
本作の見所と言えば、とにかくビリーを演じたアンドラ・デイに尽きる。演技の経験はあまりなかったとは思えない文字通り体当たりの芝居に加えて、なんと言ってもあのくぐもり気味のハスキーな甘い歌声! 至福のサントラ。
@109シネマズ二子玉川
原題 The United States vs. Billie Holiday
監督 レイ・ダニエルズ
出演 アンドラ・デイ、トレヴァンテ・ローズ、ギャレット・ヘドランド
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