6/10/2017

わたしは、ダニエル・ブレイク

  ここ2,3作ケンローチの作品はなかなか観にいけてなくて、それでも批評を読むと彼のスタンスは昔からずっと同じく労働者や社会的弱者に寄り添う語り口だけど、もしかしてあたりがソフトになっているのかなと思わないでもなかった。でも、久しぶりに観た本作は『レディバード・レディバード』の頃に戻った本気の怒りを見たような気がした。形ばかり整えられた社会制度ってかお役所仕事に対するどこにも持っていき場のない怒り。

 どんなに役所が上辺だけ体裁整えて人をサポートしてるように見える法制度を駆使しても、結局実際に助けを必要としてる人が本当に欲しているものの実態が分かっておらず机上だけの制度になっているから臨機応変に対応できないし、相手をいいように翻弄することになるんだよね。役所の対応がデジタル化されたってそこに相談にやってくる誰もがPC使えるわけじゃないのに、できない人間は最初からはじかれる。まるで落伍者みたいな門前払い。苦情や陳情の口の利き方しだいで気に入らないからと自分らの態度は棚に上げて申請だめ出しって冗談じゃない。

(役所にしても一般サービス業にしても相手の態度が気に入らないから報復的にやるべきことをあえてしてくれない、いじわるまがいの態度をとるってのは自分の数少ない渡英体験や見聞きする中でもザンネンだけどよくある気がする。もちろん海外だけでなく日本の税務署やら国保年金系役所でもこいつ人をなんだと思ってるんだろ的態度をとる人物もいたので、やなヤツは万国共通どこにでもいるだけかもしれないけど。)

 役人の中にだってえらそうなクソ野郎だけでなくまともに心ある人が当然いるはずだろうけど、そんな人々が手を貸そうとしても「前例を作るからやめとけ」みたいな理由で動くことを規制させられるなんでとんでもない話だし。

 クレーマーやらネットでのデマ風評がこわくてそこまでするかってほどこびへつらう日本の行政や企業の対応もどうかと思うけど、要は困っている立場の情状をきちんとふまえて、相手の立場に立った人としての常識で判断して対応すればいいだけだ。たしかにいろいろな就労の状況や世の中の進み方って、時代が変われば法律もハード的なものも昔と同じわけではいられないかもしれないけれど、動かして動かされるのは人間だというのは変わらないのだから。 役所の人間はもっと公僕の意味を考えやがれと思いますね。

 一生懸命立ち向かうダンやシングルマムのケイティと子供たち、中国からスニーカーを輸入してしたたかに稼ごうとする隣人青年たちのユーモアだったり心温まるシーンも見どころではあったけれど、だからこそ際立つものがあった。ケイティの缶詰のシーンもだけどお風呂場の掃除のシーンはとても心が痛かった。また、役所で唯一善意を見せてくれたおばさんが役所手続きをやめようとするダンに「あなたのような善良な人々がすべて失って路頭に迷う姿を何度も見てきた」と説得を試みる場面も。

 寝室税とか聞いたことがなかったけれど、あれこれ調べてみようと思ったけれど、ここで描かれてることって決して対岸の火事じゃない。貧困率の話題がしばしば取り上げられるようになったこの国にももっと敏感にならなければいけないことがたくさんあるはず。など、久しぶりにモンモンした怒りで血行がよくなったためか、あれこれと考える要素になった作品。やっぱケン・ローチはいい。

原題:I, Daniel Blake 監督:ケン・ローチ 2016年製作
出演:デイヴ・ジョンズ、ヘイリー・スクワイヤーズ

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