第二次大戦中、ダッハウの強制収容所で過酷な試練に耐えていた司祭アンリ・クレーマーはある日突然解放される。家族の住むルクセンブルクに向かった彼は面会を義務づけられたゲシュタポの将校ゲプハルトよりこの解放が一時的な「休暇」であり、また彼が特別に休暇を与えられたのはとある使命を果たすためだと聞かされる。それはナチスに対し依然一線を保ち続けているルクセンブルクの司教を説得しナチス側につかせることだった。逃亡を試みれば家族はおろか収容所にいる司祭たちまで皆殺しだと脅迫され司教に会いに出かけるクレーマー。説得に与えられた期間は9日間。果たしてクレーマーは自ら信じる信念を曲げて司教を説得できるのか。
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第二次大戦中のナチスとカトリック、ローマ法王の関係は「ローマ教皇とナチス」という本に詳しいそうなのですが、人種差別政策に宗教的に異議を唱えたために聖職者たちが強制収容所に連行されたこと、また多くのユダヤ人が収容所に連行されていたことを知りながら当時のピウス12世はナチスを糾弾することはなかったとか。この作品でもナチスの行いを教義に反していると非難したために収容所送りになった司祭と、ナチスの行っている行いは共産勢力に対する聖戦であり、キリストを裏切ったユダと同じ血が流れているものたちを罰することは正しいことだとして聖職者からSSに転じた将校ゲプハルトの問答は大きな見所になっています。収容所で仲間の命を救えなかったのは自分の利己的な行動にあったと自責の念にとらわれているクレーマーにその購いの場を与えるかのように「キリスト教の普及にはユダが必要だった」などと自己犠牲をし向けるような巧みな言葉で誘いこもうとするヘビのようなゲプハルト。
『ヒトラー 最期の12日間』でゲッペルスを演じていたU・マッテスの黒目がちな瞳のクレーマーと、三白眼がいかにもは虫類的な冷たさを感じさせるA・ディール演じるゲプハルトが好対照。
アメリカ映画を撮るようになったシュレンドルフは…といいつつそのあたりは『侍女の物語』とか『ボイジャー』ぐらいしかその辺はみていないんだけど、なんとなくピンとこなかったというか失礼ながら終わってしまったのかなという感じがしないでもなかったけれど、この作品は見応えがありました。公開希望。
原題:Der neunte Tag 監督:フォルカー・シュレンドルフ 2004年製作
出演:ウルリッヒ・マッテス、アウグスト・ディール、ヒルマー・ターテ
@ドイツ映画祭2005(2005.6.4~2005.6.12)にて
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