パリの空の下、不幸な事件によってホームレスへと身をやつした外国人労働者アンドレアスは、ある日突然見知らぬ紳士から「あなたがあまりに不幸そうだから援助させてほしい」と大金を手渡される。返せる時が来たなら教会の聖テレーズを訪ねなさい、との言葉とともに。
思わぬところで手伝いの仕事を得たり、新品で手にした革財布に高額紙幣が入っていたりとアンドレアスの幸運は続くが、言われたとおりにお金を返しに行こうと教会に向かうものの、かつて想いを寄せた女性との再会や旧友のチンピラにカネを渡すなどなかなか実現することができない。アンドレアスの身に起こった幸運はそういった誘惑のようなものから何かを試されるためだったのだろうか。悩みながらも結局は溺れるほど酒場で飲んでいるうちに、思い出されるのは故国に残る年老いた両親と、彼が居場所を失うことになった女性との恋愛。決して器用ではなく、朴訥で素直な人間として生きてきたアンドレアスの人生は、傍目には不幸だったのかもしれないけれど、彼が誠意を見せようと努めてきたことを天は見ていたのだと思いたい。
原作はヨーゼフ・ロートの小説で、オルミの作品としては異色と語られることも多い作品だけど、根底に流れる信仰を感じさせる要素は同様に流れている。
また、さほどセリフの多い作品ではないけれど、なんといってもどのシーンでもルトガー・ハウアーの「眼」がいい。まさに口ほどに物を言うというか。ここのアンドレアスの表情ってブレランのロイ・バッティにも通じるものがあると思うけれど、はにかんだように輝いたり、悔やむようにくすんでみえたり、彼はどんな役でも感情がダイレクトに伝わってくるような青い青い瞳と表情が(あの怖すぎる「ヒッチャー」ですらも!)素晴らしい役者さんだった。
演出も芝居もとても繊細で美しい作品と久しぶりに観て改めて思った次第。
ハウアーさんは一時期おじさんアクションスターとして不思議なくらい日本では大人気だったけどやっぱりバッティとこれが好きだな。ちなみにオルミ&ハウアーは「楽園からの旅人」でも再共演している。これも見直したいところ。
原題:La Leggenda del Santo Bevitore 監督:エルマンノ・オルミ 1988年製作
出演:ルトガー・ハウアー、アンソニー・クエイル、ドミニク・ピノン
初公開時 シネマスクエアとうきゅうにて鑑賞
2024.05.26 @紫波町オガールプラザにて再見
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