2/01/2005

ベルリン・フィルと子どもたち

 2002年、首席指揮者に就任したサー・サイモン・ラトルの提唱により開始されたベルリン・フィルの教育プログラム。初めて試みられたベルリンに住む一般子供たちのパフォーマンスとオーケストラのコラボレーションステージ「春の祭典」が公演されるまでを記録したドキュメンタリー。

 集まってきた子供たちは家庭環境に恵まれなかったり学校の授業があまり好きではない子、他人との関わり合いが面倒くさくて苦手な子から内戦で両親を失い祖国を離れた子まで境遇は様々。そんな特に踊りの素養があったとかそういうのではない普通の子供たちがストラビンスキーの「春の祭典」というとんでもない難物に挑戦するなんてすごいこと。

 最初のうち、子供たちは練習に集まっても友だちと固まってくすくす笑ったりおしゃべりをやめられない。そんな手に負えない彼らを「君たちの集中が途切れるのは自分に自信が持てないことの照れ隠し。もっと自信を持って」と何度も言い聞かせるのが振り付けを担当したR・マルドゥームさん。自らも母親との死別や父親の再婚を経験して多感な少年時代を送ってきた人。子供たちの気持ちを理解してきびしいながらも励ましたり、ダンスとの出会いが自分を変えてくれたと語る様子にこの舞台の一番の功労者は彼じゃないかなぁと思わせます。

 また早くから若き天才マエストロとしてトントン拍子に出世街道を歩いてきたように見えるラトルさんの 音楽家になれたのはまわりの理解があったからという謙虚さや クラシック音楽は決して敷居の高い高尚な芸術ではないし、ロックやフットボールと同じように誰でも気軽に楽しめるようになってほしいという言葉にも親近感が持てます。「春の祭典」というと『ファンタジア』の恐竜たちを思い出す、というところも。

  最初のうちは曲を聴いてもちっともピンと来ないとかおもしろくなーいとか言ってた子たちが、ベルリンフィルとの初めての顔合わせで熱の入ったリハーサルの様子をみているうち、だんだん真剣な顔になってその様子に見入っていくところが印象的でした。本番が近づいてくる頃には「この曲ってラップのサンプリングに使えると思うんだけど」なんて言ってる子までいたりして。

 中高生の頃、オーケストラ鑑賞会みたいのが年に1回くらい県民会館の大ホールなんかであって、わざわざ出かけなくちゃいけないというんで最初はめんどくさーとか かったりーとか思っているんだけど、いざ実際に演奏がはじまると(聴かせてもらえる選曲によるところもすごく大きいとは思うけども)おもしろくて聴き入ってしまったりずっとそのフレーズが頭から離れなかったり、個人的な記憶だと「フィンランディア」なんかそうですけど、そんなことを映画を観ながら思いだしました。

 ここでは学校の授業じゃないけれど、どんなに他の授業とか受験勉強が実用的に大事でも、やっぱり音楽や芸術に触れることでひとりでも何かピンとくる子が生まれたら学校にとっては、というよりその子にとっても全てにおいてもうけものじゃないですかね。

 上映されていた劇場ではちょっと前まで当日のステージを納めた「《春の祭典》ダンス・パフォーマンス篇+オーケストラ演奏篇」を期間限定で上映してたみたいですけれど、これ見逃したのはすごく残念。っていうかもっと平行してやってくれればいいのにー。とはいえこの本編だけでも十分に楽しめましたです。

原題:RHYTHM IS IT! 2004年製作
監督:トマス・グルペ、エンリケ・サンチェス・ランチ
出演:サイモン・ラトル、ロイストン・マルドゥーム 他(ドキュメンタリー)
@ユーロスペース


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