8/24/2004

ペッピーノの百歩

  『輝ける青春』のジョルダーナ監督2000年の作品。L・ロ・カーショのスクリーン・デビュー作でもある本作は実際に起きたジュセッペ・インパスタート殺害事件を元にしています。

 シシリーの町、チニシに生まれ育ったペッピーノ。父親をはじめ親戚や近所まで日常生活にマフィアが入り込んだ小さな海辺の町で聡明な彼は一見やさしく陽気なおじさんたちにかわいがられて少年時代を過ごす。しかし特にかわいがってもらっていたドン・チェザーレが何者かによって爆殺されたとき、彼は初めて身近にある死の恐怖とマフィアの怖さを知る。そしてドンが生前に町への空港誘致を巡ってやり合った共産主義の画家に興味を抱き次第にその思想へと傾倒していく。

 成長したペッピーノは若き党員として町への空港建設反対グループに関わっていた。でも警察が皆を検挙しても彼だけは父親とその背後についている チェザーレの後釜に座ったドン、ターノのコネで釈放される。そんな行動を繰り返すうちにペッピーノの怒りの矛先は次第にマフィアへと向けられ、新聞に過激な投稿をするようになるが、母フェリーチャは近所で売られた新聞を買い占めてできるだけ夫やターノたちと衝突を避けようとする。

 時はヒッピー文化もまっただ中の70年代初頭。ペッピーノは仲間と一緒に小さなラジオ局を開設し連日流行りの音楽と、町を牛耳るマフィアたちや時には自分の父親でさえも激しく糾弾するようになる。そんなエスカレートする息子の言動に世話になっているターノへ顔向けできない父親は当然のように激怒するが、一方では息子の身を案じてアメリカに住む親戚の元へ送ろうとする。そんな話もまとまりかけた矢先、父親は突然事故死。葬儀にやってきたマフィアたちを門前払いするペッピーノだったが、党を離れて単独で議員に立候補を表明した彼にも危険は迫っていた…。

 マフィアの家に生まれ育ったG・インパスタートは映画同様チニシでマフィア撲滅活動を展開中の1978年に何者かによって暴行後に殺害された左翼の青年で、現在パレルモには彼の勇気と行動を称え死後にその名を冠した「ジュセッペ・インパスタート・シチリア資料センター」というマフィア関係の資料収集と研究の推進に携わっている施設があるのだそうです。

 自分の身内が関わっているとはいえそのなれ合い意識に疑問を抱き、正義を求めたペッピーノ。仲間意識がより強そうにみえる南イタリアのましてや小さな町で反マフィアの行動を起こすということは大変な勇気が要っただろうと思うけれど、最終的にむごい最後を迎えることになるとはいえ その活動がある程度まわりに認知されるほどまで続けることができたのは、そういう家に生まれたことによる何かしらの計らいや身内のよしみでその行動をある程度大目にみてもらえたことが多少あるのではないのでしょうか。ただそれが分かっているからこその葛藤や怖れはより大きく彼を覆うわけで、その辺の心の微妙な加減をロ・カーショはとても好演していたと思います(ちなみにエンドクレジットの上がる前に本物のペッピーノの写真が何枚か映し出されるんですが、これが本当にロ・カーショに似てました)。

 今年のイタリア映画祭の『輝ける青春』や『夜よ、こんにちは』から一連のイタリア現代史にまつわる作品を割と続けて観られたことで、ホントにわずかながら頭の中にあった点と線とがうっすらつながって見えたような気もしました。わたしのような知識のない外人にしてみればイタリアというと陽気で底抜けに明るいイメージがどうしても先に立ち、「ゴッドファーザー」のようなマフィアなどは映画の世界だったり日常とかけ離れた裏社会のような感覚もありますが、近代、というかついちょっと前までのイタリアにはマフィアやテロの悲劇やそんな暴力に立ち向かおうとする庶民の姿が身近なところにあったのですね。もちろんそれは今も終わってはいないだろうし、また終わらせてはいけないし、イタリアに限った話でもないと思うけど。

 『輝ける青春』に続いて…ではなくこちらのほうが先ですが大きくフィーチャーされていた「朝日の当たる家 House of the Rising Sun」はジョルダーナ監督にとってどんな意味を持つ曲なのでしょう。ここでも結構効果的に使っているにもかかわらず、次作(輝ける~)ではメインタイトルに持ってくるなんて、相当のこだわりのような気がします…理由が知りたくなりました。あんまりべたなメジャーな曲を大々的に使ってる作品って個人的はちょっと引いてしまいがちなのですが、劇中クライマックスでの「サマータイム」の使い方は効果的だったと思いました(アサヤスの『冷たい水』ではイマイチでしたね…)。「青い影 Whiter Shade Of Pale」もよかったです。

役者ではロ・カーショはもちろんよかったのですが、お母さん(L・サルド)とお父さん(L・M・ブッルアーノ)、あと「輝ける~」でもロ・カーショが演じたニコラの親友役でかなりいい味を出していたクラウディオ・ジョエも。最近お気に入りの俳優さんの1人です。


原題:I cento passi 監督:マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ 2000年製作
出演:ルイジ・ロ・カーショ、ルチア・サルド、ルイジ・マリア・ブッルアーノ
@ユーロスペース(イタリア映画祭2001 上映作品)


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