8/16/2004

僕の瞳の光

  たわいもないお客の話に微笑みながら聞き入るハイヤーの運転手アントニオ。ベニーニみたいな運転手もたのしいかもしれないけど、こんな運転手さんばっかならローマのハイヤーの好感度ってかなりアップするのではないでしょうか。

 ローマのハイヤー運転手アントニオはある夜の勤務中、女の子と母親に出会う。彼を怪しい人物と思いこんでか とげとげしい態度をとる母親マリア。以来母子の様子が気になったアントニオは悟られないように二人の生活を陰から見つめ、やがて積極的に接触を試みる。次第に心を開いていく少女をよそになかなか警戒心を解かないマリア。商店街で営む冷食店の借金返済に追われたり、別れた夫や孫の将来を案じて自宅へ預かろうとする両親との間に問題を抱えながら、誰の助けも借りずに娘を立派に育てようとやっきになるあまりにまわりが見えていない。そんな不器用ながらも懸命に生きている彼女に惹かれるようになったアントニオは仕事の合間に店の留守番を手伝ったり、彼女の知らない間に借金相手サベーリオに専属の運転手になるから彼女に返済を迫らないようにと交渉したり献身的にマリアの生活を支えるようになる。しかしいつまでも心を開いてくれないマリアと 運転の仕事以外にも不法移民がらみの取り立てやらいいように仕事を押しつけてくるサベーリオにアントニオの無尽蔵にみえた優しさに小さな変化が訪れる。

 SF小説の主人公に自分を例えるアントニオの操るハイヤー車内の空間はまるで宇宙船のコクピットみたい。世知がない世間という宇宙をあてもなく流すさすらいの星の王子さまといったイメージか。

 そんな浮世離れしたピュアな王子が恋をしたのは今にもすり切れてしまいそうな心を抱えたマリア。他人から優しくされることに慣れてなくて近づいてきたアントニオについつい八つ当たりをしたり、辛辣な言葉をお見舞いしたり。でも愛なんて信じられないと思ってるのに反面寂しくてたまらないからろくでもない男にすがってはまた傷ついて。そんな様子を間近で見ていたら娘はしっかりせざるを得ないでしょうね。

 基本的には悪人が出てこない映画です。金貸し・不法移民事業に手を染めるサベーリオにしても根っからの悪人というわけではないですし。まったりした中で見落としそうになりそうだけどマリアやサベーリオ、そしてアントニオのハイヤー会社のボスのちょっとセリフも頷いてしまうものがありましたね。「道に迷った時に、他人に道を尋ねることはは決して恥ずかしいことではない」とか。

 最後のほうで息切れしてくるとはいえ全体を包み込むアントニオの優しさのほんわかしたムードに もうちょっとピリっとしたところがあってもよいかな(&もうすこし時間短くてもよかったかな…)という気がしないでもないけれど、その流れてる雰囲気は好きでした。気持ち的にあくせくしてる時に観たら夜のローマの風景とアントニオの瞳と笑顔に和めそう。癒し系の作品。

原題:LUCE DEI MIEI OCCHI 監督:ジュゼッペ・ピッチョーニ 2001年製作
出演:ルイジ・ロ・カーショ、サンドラ・チェッカレッリ、シルヴィオ・オルランド
@ユーロスペース チャオ!チネマ・イタリアーノ イタリア映画傑作選
(イタリア映画祭2003 上映作品)


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