5/01/2004

向かいの窓

  F・オズペテクの新作は昨年のイタリア映画祭で上映された「無邪気な妖精たち」同様1人の女性の自分探しの物語。

 おしゃまでかわいらしい二人の子供たちと最近ようやく夜勤の仕事を始めた夫の4人でローマの集合住宅に暮らすジョヴァンナ。いつかパティシェになりたいという夢を持ちつつ、昼間は鶏肉加工工場で経理のパートに出ながらなんとなくはけ口のないストレスを抱えている。そんな彼女の習慣は夕飯後の片づけを済ませた後、道路を隔てた向かいに住む銀行員の独身男性の部屋を眺めること。煙草の煙をくゆらせ平凡な自分の日常から逃れるかのように。

 ある日、ジョヴァンナたち夫婦は買い物に出かけた帰りに路頭に迷っている痴呆気味の老人に出会う。自分の名前も思い出せず所在なげに途方に暮れる老人に同情した気のいい夫のフィリッポは彼女の反対にもかかわらず自宅に彼を連れ帰るが、結局連れてきたらほったらかし。業を煮やしたジョヴァンナは手作りのケーキを友人の店に届けるついでに老人を警察に連れて行く羽目になるが、立ち寄った友人の店で偶然向かいの銀行員ロレンツィオと出くわす。初めて言葉を交わす二人。実は彼もジョヴァンナを窓の向こうから気にとめていて少なからず好意を抱いていたようだ。しかし二人が話している間に老人は何かに動揺しいなくなり、ようやく見つけだしたのはユダヤ人街の仕立屋のドアの前だった。自らもその腕に収容所捕虜であったことを示す鑑識番号を持つ老人の過去に何があったのか、そしてジョヴァンナとロレンツィオの関係の行方は…。

 『無邪気な妖精たち』は自立心しつつも完ぺきな夫婦関係を築いていたと思っていたキャリアウーマンの主婦が夫の死をきっかけに新たな価値観を得るお話しだったけれど、こちらの主人公はどこにでもいそうな普通の主婦。夢を捨てたわけでもあきらめたわけでもない、日常の生活や現実に押しつぶされそうになって必死で抵抗しているつもりなのになかなか現実にならなくてついついイライラしてまわりに当たり散らしているような。その辺のストレス具合が見ているこちらの痛いところを突かれてる感じで主婦でないわたしもついつい共感してしまいました。向かいの憧れの独身男性が実は自分に好意を抱いていたとか、偶然出合ったじいちゃんが実は名パティシエで技を伝授してもらえるとか、やがて自分の人生を見直していくという物語の課程に自分を重ねてみたくなるような作品かも知れません。

 「夫との生活に不満なジョヴァンナは、アパートの真向かいに住む青年に心を惹かれてゆくが・・・」というちらしのコピーを読むと単なるレディコミ系のストーリーのような感じも受けられるかもしれませんけど、決して単なる不倫ものではありません。ジョヴァンナの人生に新たな道しるべを与えてくれるのが、じいちゃんの抱える過去の苦悩。第2次大戦の頃、まだ若きお菓子職人だったじいちゃんは美しいユダヤ系の青年にほのかな思いを寄せていて周囲には白い目で見られてました。でも偶然聞いてしまったユダヤ人狩りが始まる知らせを1人でも多くの人たちに知らせようとじいちゃん(当時はこれまた美形の青年)は自分を疎んじていた近所の人たちの家を次々に回って逃げるようにと知らせ、結果として最後にたどりついた愛しの彼のところで、目の前で彼を連行されてしまったという辛い過去がありました。そういったじいちゃんの秘められ叶わなかった恋であり夢が、ジョヴァンナの普段抱いている気持ちと微妙にシンクロしていきます。その辺を別物でしっかりみせてくれても内容的には見応えがあったような気もするし、正直もう少し深い繋がりを描いてもよかったような気はしますけれど。

 主人公のジョヴァンナ演じたG・メッゾジョルノはチラシでコピられているだけあってすごく美人です。で、ロレンツィオ役のラウル・ボヴァはもうすぐ公開になるダイアン・レイン主演の「トスカーナの休日」にも出演するなど世界的に活躍しそう。でもなにより他のキャストを見るとジョヴァンナのダンナを始め、下の階の奥さんやクリーニング屋のおばちゃん、そしてじいちゃん憧れの君を演じた彼などなど「無邪気~」に出演していたオズペテク組の皆さんがずらり。再見できたのはうれしかったです。また本作が遺作となってしまったM・ジロッティの切ないおじいちゃんぶりはしばらく忘れることができないでしょう。

 それにしてももう少し作品に関して他の説明のしようはなかったのかしら。「美男美女ぶりに注目」ってそれしか見所ないのかよという気になりますもんねぇ。せっかくいろいろ賞をとっている作品らしいのに。

原題:La finestra di fronte 監督:フェルザン・オズペテク 2003年製作
出演:ジョヴァンナ・メッゾジョルノ、マッシモ・ジロッティ、ラウル・ボヴァ
@イタリア映画祭2004(2004.4.29~2004.5.4)にて


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