3/05/2004

息子のまなざし

 とある職業訓練校に少年院を出所した新しい生徒がやって来る。初めは断っておきながらその少年の名を聞くと自分の木工細工のクラスに受け入れを決める教師のオリヴィエ。なにかにつけて接近してくる少年を冷たくあしらう素振りを見せながらも放課後には彼のあとをこっそりつけていくオリヴィエ。実は少年はオリヴィエの息子を死なせた事件で服役し刑期を終えて出所してきたのだった…。

 作品の中で何よりも目を引くのはカメラの映し出すオリヴィエのうなじ。タイトルも登場しない「息子のまなざし」ではなくて「おやじのうなじ」のほうがいいんじゃないかとも思うほど気になってしまうのですが、それは彼の視点で画を捉える、ストーリーを捉えるかなり意図的な構図ではあったと思います。なんとなく、意識的に居心地悪いというか。最初少年たちの様子が彼の動きと共に映し出されるとき、彼が何を目的としているのかすごく見ているこちらまで不安になってしまう、もしかして別の目的のあるオヤジなのかなと。でもやがて彼の視線だったり落ち着きのない行動がひとりの少年がやってきたことによるものだと明らかになったとき、もしかしたら彼は最初からその少年がその場所にやがてやって来るであろうことを知っていて待っていたのかも知れないとまたどこか不安になる。彼が少年を二人きりで郊外の製材所へ連れ出したときも。
 自分の子どもを殺したくせに当時11歳であったため(?もしくは殺人事件として扱われなかったため?)わずか5年の刑期で出てきた少年。オリヴィエには復讐するつもりが多少なりともあったのでしょうか。でもそんな長年抱いてきた思いはいつしか変化を遂げ、いざ本当にその少年が目の前に現れたとき、彼はどうしたらいいのか分からなくなってしまっていて、そこでまた居心地の悪いバツの悪さを感じてしまう。そんな思いがうなじから伝わってきてなんとなく最後まで目を離せませんでした。やがて真実を知りオリヴィエの様子を遠くから見つめるちょっと不安げな少年の視線、ラストでやっときちんと見つめ合う二人の視線が印象的でした。

 ダルデンヌ兄弟の作品はいつもよけいな音楽もなければ無駄なセリフもありません。実際本作品でカンヌの主演男優賞を獲得したO・グルメの発したセリフの数は歴代の受賞者の中でも最も少ないのだそう。背中ではなくうなじで気持ちを語ったグルメ氏にはカンヌでの受賞後、出演作のオファーも続いているそうです。(@ユーロスペース)

原題:Le Fils 監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 2002年製作
出演:オリヴィエ・グルメ、モルガン・マリエンヌ、イザベラ・スペール

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