2/25/2004

シービスケット

 1930年代のアメリカ、大恐慌のあおりを受け疲弊していた大衆の夢を乗せてダートを疾走した競走馬シービスケット。そんな栗毛の競走馬とともに歩んだオーナー、調教師、そして騎手という3人の男たちを描いた事実に基づく物語。ローラ・ヒレンブランドが書いた同名のベストセラー小説の映画化です。

 自動車産業の隆盛で馬の需要が減り今や社会での居場所を失ってしまったかのようなカウボーイ(…というか職業的にはレッドフォードの「モンタナの風に吹かれて」にも登場した「Horse Wisperer」?)のトム、そんな西部を変えた新興産業で成功したものの愛息の事故死で家庭を失った男ハワード、そして家族と幸せな生活を送っていたものの恐慌のあおりを受け家と職を失った両親にひとり厩舎に身を預けられた赤毛の少年レッド。
 心に傷を抱えながら何かにすがるように懸命に生きている3人。レッドは父親が別れ際に渡してくれたかつて家族で集った食卓で暗唱した本と「必ず毎月連絡するよ」という言葉にすがり、トムは1度や2度のつまずきは命を捨ててしまうほどのものじゃないという失敗を恐れないという自分を奮い立たせるような信念に。ハワードの手元に残ったのは息子のフラッシュゴードンの小説と宇宙のパズル。愛するものに死に別れ残った妻にも離縁され手に余る富みを手にしていても虚しさの中に取り残されていた彼はマーセラとめぐりあうことで再び天にも届く未来と向き合うことができるようになる。そして3人をつないだシービスケットも申し分のない名馬の血筋を持ちながら大きく育たなかったためにその周囲からさじを投げられ理解者にも恵まれず暴れ馬のレッテルを貼られてしまった馬。競走馬に生まれべくして生まれたのにその才能を伸ばしてくれる人とめぐりあえなかったがためにふてちゃって「ふん、おめーらにおいらのことが分かってたまるか」的へそ間がりっこになってしまったお馬さんも意地にすがって生きてきたのかも。
 小説/映画化に当たっての様々な脚色はあったと思うけど、こんな運命的な巡り会いというのが本当にあるんですね。事実は小説より奇なり。その3人と1頭が互いに身を寄せ合って家族のように生きていく様子がやってることとは裏腹につつましくみえて好感が持てました。
 こまかいことをいってしまえば3人が出会うまでのエピソードのカットちりばめシーンがちょっと粗かったり、前半あれだけ存在感のあったトムが後半存在薄かったような気がするのがちょっと残念だったけれど、主役の3人はもちろんのことDJのウィリアム・H・メイシーやハワードの嫁マーセラ役のE・バンクス、ビスケットの宿敵ウォーアドミラルの馬主を演じたE・ジョーンズ、そしてレッドの親友アイスマンを演じた実際に殿堂入りしている現役ジョッキーのゲイリー・スティーヴンスなど脇を固めた俳優陣までとてもいい芝居をしてました(個人的にはJ・ブリッジスがすごくよかったけど)。とそしてなんといってもレースシーンの迫力といったら! なにかのフッテージを当てはめているとかではなく、すべてこの作品のために調教されたお馬さんたちで撮影したとは驚きです。
 最近結論を観客に委ねているような作品やらそれを受けてなんとなく斜めに作品を見てしまいがちだった自分ですけれど、赦しを知っている人々であり信じ続けることのできる人々が努力して最後には報われるという至ってシンプルでまっとうなストーリーは純粋によかったなと思えたし、なんとなくホッとしたのでした。&競争してようがそうでなかろうがお馬さんが走ってる映画はシンプルに好きだけど。

 (@日比谷スカラ座)

原題:Seabiscuit 監督:ゲイリー・ロス
出演:トビー・マグワイア、ジェフ・ブリッジス、クリス・クーパー

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