1979年10月、大統領・朴正煕の暗殺をきっかけに軍事政権下から民主化への脱却の機運が世に高まるなか、暗殺事件の解明を隠れ蓑に、のちに大統領となり権力を掌握することになる保安司令官が軍内の自身の派閥を動員し実行された軍事クーデターの一夜を描く。
内容を知らずにきて、最初ひょっとして全斗煥の話?でも名前がちょっと違うような?と思って見始めたのだけれど、実際の事件をフィクションの人名に置き換えて描かれた、実録に限りなく近いフィクション大作。当時の韓国は軍事政権時代だったことぐらいしか知らなかったけれど、これらの出来事が映画『タクシー運転手』やハン・ガンの小説「少年が来る」で描かれた光州事件につながっていき、また反乱軍の右腕が後の盧泰愚大統領になるなど隣国のニュースとしてみていた出来事に直結していることを思えば非常に興味深かった。たしかにこんな事があれば、外野でも驚いたのに大統領が自ら戒厳令を宣言するのってリアルな恐怖・危機を感じるだろう…と昨年のニュースも思い出す。
劇中の憎らしいまでに熱い稀代のヒールといっていいであろうファン・ジョンミン演じるチョン・ドゥグアンの「失敗すれば反逆罪 成功すれば革命」のセリフどおりひたすら圧倒的な作品だった。韓国の現代史を描いた作品を観るといつも背負っているものの違いのようなものを感じさせられるけれど、にしてもまだ50年にも満たない前の自国の闇の歴史を、ここまでエンターテインとしても魅せる作品として描ける韓国の映画界の志の高さはすごいと思うし、応えるように観客が劇場に足を運ぶのもすごい。
鑑賞後に事件にまつわる書籍をついつい探して読んでいるのは言うまでもないのだけれど、軍事政権下の徹底的な民衆弾圧って、ふとチリのピノチェト時代のことを思い出したりもしたのだった。やってることは一緒だよねと。
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原題:서울의 봄 英題:12.12: The Day 監督 キム・ソンス 2023年製作
出演:ファン・ジョンミン、チョン・ウソン、イ・ソンミン、パク・ヘジュン
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