2/19/2025

風が吹くとき


 先の大戦を体験し一人息子も育て上げ、ロンドン郊外の村で穏やかな隠居生活を送るジムとヒルダの老夫婦は、再び世界が戦争に直面しているというニュースを聞く。しかも今度は核戦争だ。役所からもらってきた小冊子をもとに自宅リビングにお手製の簡易シェルターを作って非常時に備える二人だったが、ついに核爆弾が発射されたと報じられる。手引に従いシェルターに避難し生き延びた二人は瓦礫が散乱し変わり果てた自宅で、かつての戦時を思い出しながら政府の助けと日常が戻ってくる日を待つのだが、いくら待ってもなにも変らないばかりか変調をきたしたのは二人の身体だった。

 公開時には内容もさることながらボウイの主題歌も話題になっていた本作。昨年吹替版がリバイバル上映されたことも記憶に新しいけれど、ようやく本編を見た。初公開時より評判の良かった森繁久彌と加藤治子の吹替版で。
 美しく、悲しく、とても恐ろしい物語。核爆弾の投下後、日常が消滅してしまった世界の中で、明日になれば新聞も牛乳も届くよ、薬も買いに行こうねと健気かつ前向きに待ち続ける二人。端から見て愚かに思うのは簡単だけど、では現実の我々が彼らより賢いのかと言えばそんなことはなくて、おそらく大差はないのだ。自分たちは大丈夫、かつての困難のようにきっと誰かが手を差し伸べてくれるはず、と思っている。本当に核を恐れて二度と使われないようにしようとするならば、きっと核抑止力なんて言葉はないだろうし、今度パンドラの箱を開けたら本当に世界が一瞬で終わってしまうことがわかっているならば、みすみすそれを誘うような行為はしないだろう。戦争状態を続けている当事者の国々だけでなく周囲も、それを身勝手な自国ファーストを宣言して国益に利用しようとする国も、みんなジムとヒルダと同じ。単なる「物語」では済まないのだ。平和だいじ。

 公式サイトの主要スタッフ紹介のうち、存命なのはロジャー・ウォーターズだけなのか、と寂しく思ったり。

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原題:When the Wind Blows 監督:ジミー・T・ムラカミ 1986年製作
原案:レイモンド・ブリッグス 日本語吹替版演出:大島渚
声の出演:ジョン・ミルズ、ペギー・アシュクロフト
吹替版:森繁久彌、加藤治子

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