5/19/2023

EO イーオー


 動物愛護団体からの抗議を受けて解散したサーカス団のロバ、EO。受け入れ先の牧場を訪ねてきた、かつてコンビを組んでかわいがってくれていた娘のあとを追い、外界に飛び出したEOは見知らぬ土地をさまよいはじめる。
 その旅はロードムービーのようでもあり地獄めぐりのようでもある。人のエゴで調教を受け、人のエゴでサーカス団を追われ、訪ねてきたかつてのパートナーたる娘のあとを追うシーンはまるでロバの感情が勝ったかのようではあるけれど、娘はそのまま彼氏のバイクで走り去ってしまう。その後EOに降りかかる、また彼が見つめる出来事に、つくづく人間って身勝手、と思わされる。
 森の中で罠に掛かり捕まったり駆除される野生動物は人間によってそんな目に遭い、かといってそんな人間たちだってロバに蹴られたり、ドライブインでいきなり物取りに刺されるなど不慮の事故で命を落とすものもいる。人間の運命も動物の運命も、生き物の命って常に紙一重で、生きていられるのはたまたまなのかもしれない。食肉工場の屋内へと向かう牛の群れに紛れたEOがたどる運命はわからないけれど、もしかしたら最後に仕分けされて助かるのかもしれないしそうではないのかもしれない。人間は回避できる手段をいくつか持っていて、それ以外のものの運命を握っているかのようにみえるけれど、別にその対象って動物に限った話ではなく人間相手だってそうだろう、太古の昔から現代に至るまで。踏みとどまれる思考があれば突っ走る必要はないのだ。

 劇中に登場してEOを演じたのは5、6頭のロバたちらしいけれど、どの子もとても愛らしい。何度撫でてあげたいと思ったかわからない。蹴られちゃうかもしれないけども。対比するかのように登場する馬たちはとても美しかったけれど、もこもこした鼻面に大きな耳、常にうるんでいるかの様な大きな瞳のロバがとても愛しくみえた。
 犬だって猫だって人に懐くようにロバだってウシだってクマだってそう仕向けられれば人間と心を通わせるようになるだろう。もっと謙虚に有りたいね、人間。ロバはなんにも言わないけれど。

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原題:EO 監督:イエジー・スコリモフスキ 2022年製作
出演:サンドラ・ドルジマルスカ、ロレンツォ・ズルゾロ、イザベル・ユペール
2023/5/18鑑賞 @ヒューマントラストシネマ渋谷

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