1/21/2023

ケイコ 目を澄ませて


 冒頭真っ暗な画面の向こうからコツコツ…と響いてくる音。なんだろうと思っているとそれは日記にその日の練習メニューや反省を書き込むケイコの鉛筆から発せられている。しん、とした部屋の中に鉛筆の音だけが響いているところから引き込まれる。

 幼いときから聴覚を失っているケイコはひとり黙々と打ち込む。ボクシングにホテルでの客室係のバイト、同居する弟とのやりとり。それは自分を守ること、淡々と物事をこなすことに徹しているかのよう。でもそうやって守るすべを教えてくれるボクシングジムのコーチや会長には少しだけ心が開かれ素直にあるように見える。
 懸命に努力してプロとして戦った試合で勝利し新しい対戦も組まれた矢先、応援に来てくれた母からかけられた「もういいんじゃない?」の言葉に揺らぐケイコの気持ち。しかし厳しいジムの経営の傍らでハンデのあるケイコを育ててくれた会長が病に倒れたとき、ケイコは初めて誰かのために戦う決心をする。
 そうして試合を終えたケイコが最終的にどういう選択をするのかは描かれないけれど、きっと外と関わり合うことへのためらいも消えていくのではないかしら。幸あってほしいなと願わずにはいられない、気持ちが温かくなる作品。
 ケイコはじめ会長、コーチ、弟と役者さんたちが皆すばらしかった。

監督:三宅 唱 2022年製作
出演:岸井ゆきの、三浦友和、松浦慎一郎、三浦誠己、仙道敦子、中島ひろ子
@ユーロスペース 2023.1.3 鑑賞

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